「からい」と「つらい」は同じ漢字?

「辛い」と「辛い」、この2つを無意識になんて読みますか?

人によってどちらも「つらい」と読んだり、あるいは「からい」と読んだりバラバラではないでしょうか?

よくよく考えれば、漢字を見ただけでは、どっちの読み方をすればいいのか分かりません。

小説や漫画などの文章に出てくる「辛い」を、世間の人たちはスムーズに読み分けているという事実が不思議ですよね?

ミサオミサオ

まして子供だったら、両者を混同してもおかしくないでしょう。

そこでこの記事では、以下の3つの疑問にお答えしていきます。

  • 「からい」の辛いと「つらい」の辛いは同じ漢字?
  • 辛い(からい)と辛い(つらい)の見分け方
  • 「辛い」の字の意味や語源

「辛い」にクローズアップして、この言葉の真実を紐解いていきます。

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「からい」の辛いと「つらい」の辛いは同じ漢字?

結論から言えば、「からい」を意味する「辛い」と、「つらい」を意味する「辛い」はどちらも同じ漢字です。

  • 辛い:からい
  • 辛い:つらい

その証拠に、パソコンやスマホで「つらい」と「からい」を変換すると、どちらも「辛い」と表示されますよ。

つまり、まったく同じ形の漢字と送り仮名の組み合わせなのに、読み方は2つあるわけですね。

ですから、「辛い」の漢字を見ただけは、どう読んで、何を意味するかは判別のしようがありません。

この事実だけを抜き出すと、日本語の欠点とも言えますが、実はこれ、日本語の成り立ちに大きくかかわってくるんですよ。

なぜ同じ漢字を使うのか?その秘密は語源にあった!

中国の地図と国旗

古代の日本には文字が無かったのは、ご存知の通り。

言葉をしゃべれても、それを石版や木材などに文字として残すことはできませんでした。

それがようやく聖徳太子の時代になって、中国から漢字を取り入れることで初めて文字を手にすることに。

そうやって文字を輸入する過程において、日本語の「からい」と「つらい」という2つの表現をどの漢字に当てはめるか、選ぶ必要があったんですね。

もともと中国語における「辛」という漢字には、「つらい」と「からい」の両方の意味があったことから、そのまま日本語でも当てはめる流れに。

ようするに、辛い(からい)と辛い(つらい)が同じ漢字なのは、中国における漢字の意味にルーツがあったんですね。

では、どうして中国において「辛」の漢字には、「つらい」と「からい」の2つの意味があったのでしょうか?

「辛」の漢字に「つらい」と「からい」の2つの意味があるワケ

中国で漢字の「辛」に「つらい」と「からい」の2つの意味があったのは、理由をきけば納得できます。

その理由というのが、以下の2つです。

  • 漢字の成り立ちから
  • 「からい」は味覚ではなく痛覚だから

どういうことなのか、くわしくチェックしていきましょう。

「辛」の漢字の成り立ちから

そもそも中国の漢字は「象形文字」に分類されます。

象形文字とは、自然や生き物の形をもとに、作られたもの。

たとえば、「山」という漢字を見れば、山々が連なっている様子が容易にイメージできます。

「川」も、見た目ですぐ水の流れがイメージできるはず。

では、肝心の「辛」の漢字は、何から象られたかというと、なんと「刺青を入れるための針」なんだそう。

刺青は現代ではタトゥーと呼ばれ、若者の間ではファッションのひとつになっています。

外国のアーティストやサッカー選手には入れてる人が珍しくありません。

しかし、古代中国では罪を犯した罪人に消えない印を刻むため、刑罰のひとつとして施されていたそうです。

それも額に針で文字を刻んで、そこに墨をすり込むという乱暴さ!

当時は技術が未発達だから痛みがあるのは当然として、罰として刻むため、むしろ痛みがなければやる意味も半減したのかもしれません。

そんな苦痛をともなう器具から発想された象形文字なので、「つらい」を意味するのは納得できますね。

※ちなみに日本で刺青に対してイメージが悪いのも、そうした中国の風習が伝わった面が大きいと思われます。

「からい」は味覚ではなく痛覚だから

「からい」は、わさびがたっぷりの寿司を食べたり、唐辛子が効いたキムチを食べたときに感じる舌の感覚。

いわゆる「味覚」のひとつだと、誰もが思っているはず。

ミサオミサオ

しかし、それは誤解なんですね。

人間の味覚は、以下の5種類があると言われています。

  • 甘味
  • 酸味
  • 塩味
  • 苦味
  • うま味

そう、どこをどう見ても「辛味(からみ)」は入っていません!

実は人間の舌が感じる辛さは、味覚の一種ではなく「痛覚」なんですよ。

痛覚とは、つまり単純にいえば「痛み」です。

意外な事実かもしれませんが、私たちが辛いものを食べてありがたがっているのは、痛さを心地よく味わっているということ。

しかし、度を越えた激辛の料理を食べると、おいしいを通り越して苦痛から涙が浮かび、つらくてしんどいですよね?

ここまで説明すると、思い至ると思いますが、本来の意味において、「辛い(つらい)」と「辛い(からい)」は同じグループの感覚になります。

図式にすれば一目瞭然、「からい=いたい=つらい」!!!

中国では四川料理のように唐辛子を大量に使った料理がありますが、無意識のうちに辛味が痛覚だと悟り、「辛」の漢字に両方の意味をあてたのでしょう。

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辛い(からい)と辛い(つらい)の見分け方

辛い(からい)と辛い(つらい)の読み方や意味が、ひとつの漢字に宿っていることはご理解いただけたでしょうか?

では、小説や漫画、こうしたネットの文章などに「辛い」が使われているときに、どちらの読み方をすればいいか?見分け方をご紹介します。

しかし、単純に見分ける方法は……、すみません、そんなものはありません。

見分けるには、「辛い」がどんな文脈で使われているか、そこから推測するしかありませんね。

ひとつ例題を出しましょう。

  • A君はキムチを食べて辛いと思った
  • B君はキムチを食べるのは辛いと思う

正解は、前者は「からい」、後者は「つらい」です。

後者もつい「からい」と読んでしまいそうですが、それでは不正解。

前後の文章から、B君はキムチみたいな辛い食べ物が苦手だから、食べるのが「つらい」んだなと想像力を駆使して読み取る必要があります。

こんな面倒で分かりにくいことになるなら、「からい」に特別な漢字を作って、それを当ててほしいという声も聞こえてきます。

たとえば、口偏に火を添えて、「口火い」が創作漢字のアイデアとして挙げられていましたよ。

口から火を吹いているイメージで、辛いにはピッタリかも?

はっきりと区別する正しい方法

知れば知るほど不満が湧いてきますが、実は両者をはっきりと区別するために、あるルールがあるんですね。

それが常用漢字表において、「辛」の訓読みが「からい」のみということ。

つまり常用漢字(漢字を日常的に使うルール)においては、「辛い」と書いたら、読み方は「からい」オンリーなんですよ。

毎日新聞の校閲センターのTwitterに、こんな投稿が見つかりました。

新聞記者が原稿に「辛い」を「つらい」の読み方で使うと修正が入り、紙面では「つらい」とひらがな書きされるわけです。

ですから一般的には、「辛い」は「からい」と読む場合にしか使われていません。

以下の常用漢字表におけるルールを、もう一度チェック。

  • からいは漢字で書く⇒「辛い」
  • つらいはひらがなで書く⇒「つらい」

というわけで、常用漢字表を厳守している新聞や雑誌などでは、両者を意識的に区別する必要はないんですね。

※常用漢字とは、公的な文書や新聞雑誌、放送などで漢字を使う場合の取り決めのこと。

辛い(からい)と辛い(つらい)は英語でなんと表現する?

英語においては、辛い(からい)と辛い(つらい)はどう表現するのか、比べてみました。

  • からい⇒hot,spicy
  • つらい⇒trying,hard,painful,bitter

日本語(中国語)のように両者をひとつのグループにはまとめていませんね。

英語が生まれた英語圏(イギリス)では、辛い料理があまりないため、辛さ=痛みという発想につながらなかったのかもしれません。

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まとめ

「からい」「つらい」はなぜ同じ漢字なのか、どう区別すべきなのかご紹介してきました。

最後におさらいしましょう。

  • 「からい」と「つらい」はどちらも同じ漢字が当てられる
  • 中国語の語源から日本でも同じ漢字が使われる
  • 「辛」は刺青の針をイメージした象形文字で「苦痛」を意味する
  • 「からい」は味覚ではなく痛覚
  • からい=苦痛=つらいという共通点から「辛」が使われる
  • 常用漢字表では「辛い」は「からい」としか読まない
  • 「つらい」を書くときは、ひらがな表記がルールとされる

ざっくりいえば、つらいのは苦痛だし、からいのも苦痛じゃないですか。

もちろん、どちらもある種の人には快楽かもしれませんが、普通の人には体や心の痛みはつらいし、激辛料理は食べるのがつらいはず。

そう考えれば、両者が同じ漢字を共有するのも納得できますね。

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